私たちは生きている限り、当事者としての「死」を認知しえない。それでも人間である以上、必ず訪れる生物としての「死」。そのような「死」について、私たちは真実何かを語ることはできるのだろうか?
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髙村薫著『太陽を曳く馬』では、人の生死とその言語化というテーマに迫る。
欺瞞を排して容赦なく切り込んでいくその舌鋒はいや増して鋭く、読者としても束の間薄ら寒い生死の淵に立ったかのような気がして、ちょっと言葉にならない感じだった。渾身の作だと思う。
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ジョン・ル・カレ著『スマイリーと仲間たち』を読んだ。
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』に続く〈スマイリー三部作〉の第三作目にあたり、スマイリーと宿敵カーラの決着の模様が描かれる。
最終章ということもあってか、スマイリーの為人と生き方に焦点を据えた、奇の衒いのないストレートな話だったと思う。
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