地下書庫巡礼記

どこかに眠る、懐かしの物語を探して

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『太陽を曳く馬』 人は死を語りうるか?

私たちは生きている限り、当事者としての「死」を認知しえない。それでも人間である以上、必ず訪れる生物としての「死」。そのような「死」について、私たちは真実何かを語ることはできるのだろうか?

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髙村薫著『太陽を曳く馬』では、人の生死とその言語化というテーマに迫る。

欺瞞を排して容赦なく切り込んでいくその舌鋒はいや増して鋭く、読者としても束の間薄ら寒い生死の淵に立ったかのような気がして、ちょっと言葉にならない感じだった。渾身の作だと思う。

 

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『新リア王』の時代観 老いゆく者に未来は見えない

髙村薫著『新リア王』を読んだ。

 

青森の名士・福澤家を題材にした三部作の第二作目にあたる。

母と子の繋がりを描いた第一作『晴子情歌』に続き、『新リア王』では父と息子の対話を通して、世代継承と時代の移り変わりを描く。

題名通りまさに「悲劇」に至る痛烈な皮肉と、雪国の染み入るような寒さを噛み締めながら読んだ。

 

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『骨の山』を考察する 黙して語る〈結びつき〉のレトリック

アントワーヌ・ヴォロディーヌ著『骨の山』(濵野耕一郎訳) を読んだ。

 

ある種の共通した哀しみを持つ者同士の紐帯を実験的な手法で描く、ヴォロディーヌらしい小説だ。

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『天涯図書館』「書くこと」の意味についての模索

皆川博子著『天涯図書館』を読んだ。

 

『辺境図書館』『彗星図書館』につづく、皆川氏による書籍案内エッセイである。

幻想小説や詩歌を中心とした選書なのは変わらずだが、2020~2023年連載の時勢を反映し、「ロシア情勢」「(戦争、パンデミックを引き金とする) 社会機能の麻痺」についての言及が多く、前二作とやや毛色が異なっている。

 

 

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『スマイリーと仲間たち』ジョン・ル・カレ|これまでの人生との対峙

ジョン・ル・カレ著『スマイリーと仲間たち』を読んだ。

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』に続く〈スマイリー三部作〉の第三作目にあたり、スマイリーと宿敵カーラの決着の模様が描かれる。

最終章ということもあってか、スマイリーの為人と生き方に焦点を据えた、奇の衒いのないストレートな話だったと思う。

 

 

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