ゴールディング『蠅の王』について全体を通した感想はこちらの記事に書いたのですが、一点書き残していたのがSimonについてでした。
Simonは、「腐敗した豚の首」に ”lord of the flies” なる存在を幻視し、「それ」との対話を通じて人間心理への考察を深めていきます。物語の結末も相俟って、『蠅の王』の核心に迫る象徴的なキャラクターとして描かれるのですが、今回言及したいのは、このような寓話としての役割についてではなく、Simonという少年一個人の性格についてです。実のところ、『蠅の王』で登場する少年たちの中で最も印象的だったのがSimonでした。
Simonの性格について
He was a small, skinny boy, his chin pointed, and his eyes so bright ...
Simonは「小柄でやせぎすの、輝く目をした少年である」という描写があるのですが、この「輝く目」というところが、彼にとっての理想の空間でひとり夢想にふける様子を端的に表しているようでとても印象に残っています。では、Simonの性格を深掘りしていきましょう。
Simonの性格は、大きく以下のような特徴があると感じました。
1:博愛主義
Simonは他者への共感力が強く、相手が望んでいることや物事の本質を汲み取る感覚に長けています。そのためか、他者の喜びに自らの喜びまでをも見出し、作中でも非常に多くの利他的な言動を取っています。
誰かに喜んでもらいたいという気持ちは善良な人間の心理としては自然ではありますが、彼が特殊なのは、その「他者」の対象が非常に広範囲で分け隔てがない点です。またこのような形で他者に貢献することを自らの使命とまで捉えている節すらあるかもしれません。
2:孤高である
Simonの利他的な言動や高度に観念的な思考は、他の少年たちの標準的な思考基盤から逸脱したものであるようです。そのため始終 “batty” と称され、変わり者だと認識されています。またSimon自身も、自らについてあまり多くを語ることはしません。そしてここに断絶が生まれます。
彼の面白い所は、このような周囲とのズレを認知していてなお、それをありのまま受容した上で、変わらず他の少年たちのことを好ましく感じている所でしょう。
3:自己優先度が低い
Simonは他者のためなら自らの身を削ることを厭いません。この場合、「他者」とは文字通り自分以外の人間。この献身的な生き方は、他者を優先するために自分自身の優先度を下げることでもあるでしょう。実際、彼が自らに向ける欲求は「自分一人の時間を持つこと」ただそれだけ。
このような優先度の付け方は、時として自らを無防備な状態に晒すことでもあります。物語の結末は確かに衝撃的でしたが、根本的な所で自らを蔑ろにしがちであるがゆえの危なっかしさのようなものをSimonは常に抱えていたと感じます。
まとめ
他者への共感力や感受性の強さ、感情や状況を抽象化して理解する汎化能力の高さは、Simonの行動や思考の根源的な動機となっているようです。しかしその特性ゆえに、周囲からの受け入れられ方が少し特殊であったり、社会でうまく生きていく上での苦労があったりもする。
このような他者と自己の関係の複雑さ、そしてなによりも行動原理のユニークさが興味深く、心に刺さるものを感じたのでした。
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