アントワーヌ・ヴォロディーヌ著『アルト・ソロ』を読んだ。
幻想小説の形を取った、社会体制から零れ落ちた者たちの緩やかな連帯を描いた小品だ。
あらすじ
架空の都市・シャムルーシュでは、人間に紛れて鳥人間が住んでいる。ここでは、鳥人間であることは悪である。
対して、シャムルーシュで権威を振るうのは、「フロンド主義」なる思想を掲げたフロンド党だ。「一つの民族には、ただ一つの文化を、ただ一つの見世物 (大衆芸術) を!」と、20世紀的全体主義にポピュリズムを融合させたようなスローガンを彼らは唱える。
フロンド党体制下における、鳥人間を筆頭とした反体制派への弾圧事件の一夜を、幻想小説の形式を取って描く。
青き悠久のユートピア
反体制派として出てくる人物たちは、普遍的な意味でみなどこか〈異端者〉としての属性を持っている。迫害される鳥人間、出所したばかりの元服役囚、感受性の強い道化師。音楽家、知識人、芸術を愛する者たち。この物語は、かれら〈異端者〉たちの抱える孤高を肯定する。孤高を肯定するための物語である、と言ってもいい。
孤高に生きる者たちの、共に体制から零れ落ちた者同士の緩やかな連帯の象徴として、最終章では、かれらのためのユートピアが描出される。その青く悠久なるイメージは、ある種の祈りのような、震えるようにか弱げながらも鋭敏な美しさがあった。
作風について
多少実験的な側面はあるものの、話の構造としては非常にシンプルで、同作者の『無力な天使たち』では気付かなかった作者の生の感情や創作の動機のようなものが少し窺い知れたように感じる。
とはいえ、物語の締め方の着想然り、前後関係が不明瞭なまま主語が錯綜した哀愁の描写が挿入されるスタイル然り、全体を通じてやや感傷的すぎる印象は持ったかな。