地下書庫巡礼記

どこかに眠る、懐かしの物語を探して

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ササルマン『方形の円』

 ギョルゲ・ササルマンの『方形の円』を読みました。


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 『方形の円』は、36の架空都市とそれら都市と関わる人々とのエピソードを記述した奇想譚です。

 

 個人的には各都市の挿話それ自体は玉石混交といったところでしたが、

  • 都市の上に都市を作り、時の流れの分だけ垂直に成長し続ける都市(学芸市)
  • 石組みの古城の中で夜な夜な果てしのないワルツを踊り続ける都市(古城市)
  • 数えきれないほどの緩やかな旋回を繰り返し、ようやくたどり着いた円の中心で運命の完結を迎える渦巻き状の都市(貨幣石市)

などいくつかの掌編は、幻想小説としても魅力的でした。

 

 また、多種多様な架空都市を扱っていることからやはりカルヴィーノの『見えない都市』を連想するところではあり、そして案の定引き合いに出して差異を探してしまうのですが、この二作品では都市を物語る上での焦点がいくぶん異なっているようには感じました。

 というのも、『見えない都市』では、外枠の設定として報告の態をとっていることもあり、都市の姿を切り取り記述する「視線」や、都市のあり方に何らかの意味を見出す「物語る」行為自体に意識が据えられているのに対し、『方形の円』では、「登場人物たちの運命が都市の運命と密接に結びついている」と「私の幻想都市」にて作者が述べている通り、都市と登場人物とが有機的に作用しあうそのエピソードの多様さや想像の広がりに価値が置かれているように感じるのです。

 つまり、『見えない都市』が都市を通じて人の衰勢に思いを馳せる思索である一方で、『方形の円』は人と交わり創造され変容していく都市自体の衰勢の記述である言えるのではないでしょうか。