地下書庫巡礼記

どこかに眠る、懐かしの物語を探して

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『蠅の王』夢想家サイモンに関する覚書

ゴールディング『蠅の王』について全体を通した感想はこちらの記事に書いたのですが、一点書き残していたのがSimonについてでした。

 

Simonは、「腐敗した豚の首」に ”lord of the flies” なる存在を幻視し、「それ」との対話を通じて人間心理への考察を深めていきます。物語の結末も相俟って、『蠅の王』の核心に迫る象徴的なキャラクターとして描かれるのですが、今回言及したいのは、このような寓話としての役割についてではなく、Simonという少年一個人の性格についてです。実のところ、『蠅の王』で登場する少年たちの中で最も印象的だったのがSimonでした。

 

 

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『蠅の王』を原書で読む 集団における人間関係の理

ゴールディング『蠅の王』を原書で読んだ ( 原題:"Lord of the Flies" )。

なんとなく馬が合わなさそうな者同士でも、表面上はうまくやっていかないといけない場面というのは、生きている上でよくあると思う。社会や組織、共通の利害を持っている集団内にあればなおさら。

『蠅の王』は、このような、集団内での人間関係においていずれ揉めそうだと感じる言動の「あるある感」が絶妙で、現代においてもそのまま通用する感覚であることに新鮮に驚いた。

 

 

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『スクールボーイ閣下』ジョン・ル・カレ|名も無き者たちに捧げるは

ジョン・ル・カレ著『スクールボーイ閣下』を読んだ。

英国情報部の中枢部に潜り込んだ二重スパイを追う『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の続編であり、〈スマイリー三部作〉の第二作目にあたる。

優れた観察眼を通じて描かれる泥臭い人間ドラマに加えて、今回はなんと70年代当時の緊迫したアジア情勢下をめぐる冒険劇も味わえる。「こんなに面白い小説を一気に味わってしまっていいのか!?」と思えるような贅沢な作品だった。

 

 

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『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ|裏切り者探し、大人たちの世界と少年

ジョン・ル・カレ著『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を読んだ。

東西冷戦時代を背景にしたスパイ小説で、2011年には「裏切りのサーカス (原題 ”Tinker Tailor Solder Spy”)」として映画化されている。

先日、この映画「裏切りのサーカス」を観たのだが、人間ドラマの湿っぽさを整然とスマートな話運びで描いているのがとても気に入り、そこから原作である本書にも手を伸ばした。

 

 

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